「むむ、これはパクりの財布じゃないか!?あかんなぁ!」
このような経験がある方は、パクられた財布の企画者、あるいはファンでしょう。そしていざパクりを見かけると、不快感を覚えます。
本記事では、パクリ商品の可能性が高い例を取り上げながら、その問題と対応策をまとめました。また、似ていながら全く異なる設計思想の財布を解説しながらパクリでないケースも紹介。
詳しく知ることで、財布の奥深さを理解できますし、不快さから解放される場面も出てくるでしょう。
【はじめに】パクリは不快
明らかなパクり商品を目にすると、どこか不快な気分にさせられます。
パクられた商品を最初に企画していた側からすれば、商品化までの苦労を軽んじられた気分でしょう。
アイデアをひねり出し、(物や人によっては本当に多くを犠牲にし、)試作を重ねながらようやくたどり着いたヒット商品。
投じた開発費、知的財産権費用、宣伝費、時間、労力、情熱は莫大。
パクリは遺憾な行為
そこに明らかなパクり商品が登場し、低リスク・低投資で利益をかっさらう。
とても遺憾な行為です。
これは元祖ヒット商品を愛用するファンにとっても不愉快。
- 本当は◯◯メーカーが最初に企画した商品なのにパクるなんて!
- 格安のパクリを買った人は商品の誕生秘話を知らずに腹が立つ!
- 似たようなパクり商品が乱立して企画したメーカーが利益を得られないじゃないか!
わたしもこの心境を理解できます。
レガーレの財布はエムピウのパクリ?
財布界でもパクリ問題はしばしば取り上げられてます。
そこで話題になった具体例を一つご紹介。
それがエムピウ(m+)のパクリと言われたレガーレ(Legare)の財布。
順を追って説明します。
エムピウのミッレフォッリエ
まず、こちらが2004年に発売(2001年誕生)されたエムピウの「ミッレフォッリエ(millefoglie|17,600円)」↓
エムピウの代表作であり、月間800個が販売される超人気レザー財布です。
「ギボシ」というピン状の留め具をつかい、まるで本のような立体感ある佇まい。
一級建築士の村上雄一郎(むらかみ ゆういちろう)氏が、家族を日本に残して単身イタリアに渡って修行。その末にようやく生み出した渾身の逸品。
ブランドを立ち上げ当初、なかなか軌道に乗らない中、この「ミッレフォッリエ」のヒットがきっかけで20年近い継続に至ってます。
レガーレの三つ折り財布
そしてこちらが「ミッレフォッリエ」に似ていると話題のLegare(レガーレ)(2015年会社設立)の「三つ折り財布(3,980円)」↓
(※理由は定かではありませんが、現在は「在庫切れ」の表示で販売されていません)
エムピウの「ミッレフォッリエ」はイタリアのブランドレザーを使い、国内生産のクオリティにこだわっているのに対し、レガーレの「三つ折り財布」は安価な素材と海外生産によって価格を大幅に下げて販売。
購入者の10%ほどが口コミするというAmazonでのレビュー数が500、楽天市場でのレビュー数が180を超えることから、6800個以上の売り上げを出していることが予想されます。
隅々まで酷似
ご覧のように、オリジナリティ抜群のデザインの財布ですが、隅から隅まで酷似していました。
両者の発売時期を考慮すると、「ミッレフォッリエ」をレガーレがデッドコピーした可能性が高いでしょう。
「ミッレフォッリエ」が誕生するまでの村上氏の苦労を踏まえると、なかなか穏やかではありません。
(※このような類似のデザインは氷山の一角)
ただ、パクリって凄いことでもあるよね
ここで一つ忘れてはいけないのが、レガーレの「三つ折り財布」も購入者が多かったという事実。
素材や生産費用を安価にすることで、より多くの人が手に取りやすい価格になっていました。
単純に「オシャレなデザインの財布を使えれば良い」という層には大ヒット。
そういう意味で、何かしらの価値は生み出していました。
知的財産権の取得で防ぐ
とはいえ、再び発案者の村上氏の視点に戻ると、レガーレの「三つ折り財布」は自らの思いからかけ離れた製品。
では、どうすればこういったパクリを抑えることができたのでしょうか?
真っ先に思い浮かぶのが「特許権(技術を保護)」や「意匠権(デザインを保護)」といった知的財産権の取得による保護でしょう。
案外簡単に相談できる
これを書いてるわたしも過去に知的財産権を取得したことがありますが、特許権は25万円(学生による減免制度使用)、意匠権は10万円ちょっとで取得できました。
(ちなみに取得して数年後から更新費用7万円以上がかかってきます)
決して安くない費用で、商品化を計画するなか、知的財産権の取得まで資金や頭を使うのは大変でしょう。
とはいえ、そこは弁理士さんもプロ。意外にも気軽に相談に乗ってもらえます。(私がお世話になっている弁理士事務所)
これから製品の企画をしていきたい方なんかはぜひ抑えておきたいところですね!
完璧な保護策はない
20年(意匠権は25年)は保護できる特許権は強力ですが、もちろん完璧ではありません。
知的財産権に記された事項を巧みにかわし、製品化されてきたものも多数あります。
なので、どこを真似されたら困るのか、弁理士さんとしっかり相談しておきましょう。
アブラサス、エムピウ、そしてsyrinx、どの財布がパクリなのか?
ここまでパクリの可能性が高い財布の事例を挙げながら、その問題や対策を考えてきました。
その一方で、安易にパクリと判断できない製品があることを知っておくのも大事でしょう。
なにより、物事の見方が楽しくなります。
良い例として、「小銭とカードが重ならない薄い財布」デザインが挙げられます。
今人気のコンパクト財布形状
この「小銭とカードが重ならない薄い財布」は、ここ最近トレンドのコンパクト財布形状です。
流行の背景には、キャッシュレス決済の普及やECサイトでの購入の普及があるでしょう。
現金の使用頻度が下がったことにより、財布には最低限の現金だけを収納し、気軽に持ち運びたいという需要が伸びました。
いまでは多くの財布ブランドで「小銭とカードが重ならない薄い財布」が登場しており、「パクりなのではないか?」という意見も散見されます。
【徹底比較】3つのコンパクト財布の設計思想を分析
しかし、「パクりと言うには少し早計なのでは?」といち財布ファンとして感じる場面があるのも確か。
具体的にどういうことか?
これをすでに知名度ある3つのブランドの「小銭とカードが重ならない薄い財布」を紹介しながら説明します。
比較する財布
- アブラサス 薄い財布
- エムピウ ピアストラ
- シュリンクス ヒトエ・フォールド
とにかく同じ「小銭とカードが重ならない薄い財布」でも、設計思想や設計手法が全くことなることに気がつきます。
どうぞ、私なりの考察をご覧ください↓
ご注意
あくまでわたし個人の見解で、全てが正しいわけでも、他者の意見を否定するものでもありません。
その点、あらかじめご了承ください。
【アブラサス 薄い財布】薄さと拡張性【そして革の使い方】
概要
【発売年】2009年
【価格】19,800円 (ブッテーロ)
【寸法】95×98×13mm
【概要】
コンパクト財布ジャンルを世に広めたと言っても良い、薄さに特化した原点にして頂点の財布。
その完成度の高さから、10年以上経った今でも絶大な人気を誇る。
まさにアイデア雑貨ブランド「アブラサス」を世に広めた象徴の財布(2013年グッドデザイン賞受賞)。
【設計手法】
30年以上にわたって形状に変化のなかった二つ折り財布に、「薄い財布」発案者の南和繁(みなみかずしげ)氏は疑問を抱いていたようです。
ズボンのポケットに入れても不快感のある厚めの従来型二つ折り財布。
そこで、「財布というものを全く知らなかったと仮定したとき、薄さを追求するとどのような形状になるか?」を0ベースで考えていきます。
こうして「アブラサス 薄い財布」のエキセントリックなデザインが生み出されます。
設計思想
- 薄く
- 財布としての機能性
- 一枚の革パーツから
1.薄く
ズボンのポケットにすっきり収まる薄い財布を作るため、「小銭とカードが重ならない薄い財布」のデザインを採用。
2.財布としての機能性
1.の薄さをデザインの制限としながら、財布としての機能性の追求が主に2つの点で見られます。
①お札・小銭・カード、それぞれが個別で取り出せる
②拡張性の追求
①お札・小銭・カード、それぞれが個別で取り出せる
まず一つ目ですが、お札・小銭・カード、それぞれが個別で取り出せます。
これにより財布を開いても中身が落ちない安心感があります。
お札を取り出すとき
例えばお札を取り出すために財布を開いたとき、カードと小銭はしっかり収納されているため、落ちる心配がありません。
小銭を取り出すとき
これは小銭を取り出す場合でも同じことが言えます。
小銭を取り出すためにコインポケットを開いても、カードとお札ははさまって収納されているため、落ちる心配がありません。
カードを取り出すとき
カードに至っては、財布を開かなくても取り出せる工夫がされています。
もちろん、小銭とお札が落ちる心配はありません。
ユーザーを思いやる
他の2つの「小銭とカードが重ならない薄い財布」と比較するとより分かりやすいのですが、
「アブラサス 薄い財布」は、お札・小銭・カードの3つのうち、いずれかを(他の二つが落ちる心配がないまま)ピンポイントで取り出せる安心感があります。
②拡張性の追求
そして財布の機能性を追求したことが読み取れる二つ目のポイントとして、鍵や名刺まで入ることが挙げられます。
鍵が入る
まず鍵ですが、専用のポケットが用意されています。
スマホとこの「アブラサス 薄い財布」だけで外出できるようにデザインされていることが分かります。
名刺まで
そして「アブラサス 薄い財布」の横幅は、名刺が入るサイズにアジャストされている点も嬉しいポイント。
IT化に伴い、名刺の必要性も問われていますが、やはり稀に使用するのが名刺です。
いざというときに数枚ほどしまっておけば安心。
ユーザーに応える拡張性
薄いのは当然として、「安心した使い勝手」、そして「財布が請け負える拡張性は全て実現すること」、これらが前提のデザインであることが理解できます。
3.たった一枚の革パーツから
1.の「薄さ」と、2.の「財布としての機能性」を追求した上で、「一枚の革パーツ」から作り上げようとした設計思想も忘れてはいけません。
下の写真を見ていただけると分かりやすいです。
分解写真
わたしが実際に使用していた「薄い財布」を分解した写真↓
特許申請された設計図
そして、下の写真が「薄い財布」の特許権の申請時に用意された図↓
どちらを見ても分かりますが、これだけの複雑な機能を持った財布をたった「一枚の革パーツ」から作り上げるコンセプトで取り組んでいるのです。
見た目はエキセントリック、パーツはシンプル。まるでパズルピーズのような感動構造。
「アブラサス 薄い財布」が常識を覆した境地で設計されたことがわかって頂けたかと思います。
ブッテーロレザー
もちろん、レザーには伊「ワルピエ社」の「ブッテーロレザー」をつかっていることもポイントです。
引き締まった上質な仕上がりで、レザーの細かい繊維模様が楽しめる透明感が秀逸。
まさに「アブラサス 薄い財布」はすべての常識を覆した原点にして頂点の薄い財布。
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【レビュー】アブラサスの薄い財布(ブッテーロ)|構造の新発見も解説!
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【エムピウ ピアストラ】薄さと工夫の積み重ね【そして革の使い方】
概要
【発売年】2018年
【価格】11,000円
【寸法】100×105×15mm
【概要】
エムピウらしい発色バツグンのイタリアンレザーを薄い財布へと仕上げた逸品。
先述した「ミッレフォッリエ」に続き、シンプルでオシャレな見た目から熱狂的なファンが多数。
ただし、内部構造を確認するとその工夫の数々に驚愕。
【設計手法】
"自分が良いと判断できるところまで徹底的に工夫を繰り返す"
エムピウ「ピアストラ」のデザイナー村上雄一郎(むらかみ ゆういちろう)氏は、もともと一級建築士として仕事をしていました。
しかし、建物という大きな商品を試作することなく納品する仕事に疑問を抱き、試作を繰り返したモノづくりが可能なレザーブランドを展開することに。
この背景から、財布としての機能性を追求した工夫が「ピアストラ」には随所で確認できます。
設計思想
- 薄く
- 財布としての使い勝手のための工夫
- レザーを活かすデザイン
1.薄く
ズボンにすっきり収まる薄い財布を作るため、「小銭とカードが重ならない薄い財布」デザインを採用。
ズボンの後ろポケットに入れても暴れ回らないピッタリ感を想定し、ムダな「数ミリ単位の小ささ」の追求は敢えて排除したサイズ感。
これにより、財布全体に余裕ができ、収納力もアップ。
2.財布としての使い勝手のための工夫
「エムピウ ピアストラ」は一見すると非常にシンプルな財布です。
しかし、よく観察してみると、財布としての使い勝手を向上させるための工夫の数々に驚愕します。
お札ガイド
ズボンのポケットにピッタリ入ることを想定したため、財布の縦・横幅は少し大きめ。
そこでお札が中央に収まるよう、丁寧にガイドを設置。
背面ポケット
背面には頻繁に使う交通系ICカードがピッタリ入るポケット。
あえて片方の角だけ面取りすることで、カードの取り出しやすさが向上していました。
小銭が落ちないフタ
従来のコインポケットといえば、小銭がこぼれ落ちないようにホックボタンが使われてました。
「ピアストラ」は縫い合わせを工夫したフタを採用することで薄さを維持。
もちろんコインはこぼれ落ちません。
見やすいコインポケット
そしてフタを開けばこのコインポケット。
小銭がこぼれることのない、しかし見やすく、取り出しやすい絶妙な形状。
意外に収納力のあるポケット
小銭がより多く収納できるように(18枚入りました)、革を折ってポケットを構成。
カードの角の力を逃す三角穴
どうしても負荷がかかるポケットのコーナー。ここは革が伸びたりステッチが切れやすい箇所。
そこで三角穴を設けて力を逃しています。長く愛用できるレザーアイテムならではの工夫です。
ユーザーの使い心地に対応
「ピアストラ」は、「薄さ」に加えて「絶妙な使い勝手」を体験できる設計となっていることが分かります。
一見シンプルながら、何度も微調整を繰り返してたどり着いたデザイン。
本当に使いやすいモノは、ユーザーもその設計の工夫に気が付かないものです。
3.レザーを活かすデザイン
エムピウの村上雄一郎(むらかみ ゆういちろう)氏のレザーアイテムの特徴として、発色の良いイタリアンレザーを活かした作りが挙げられます。
二年間のイタリア修行経験から、イタリアンレザーの良さを誰よりも熟知されているのでしょう。
ミネルバリスシオ
「ピアストラ」もそんなイタリアンレザーを存分に味わえる財布。
名門「バタラッシィ・カルロ社」の1.5mm厚のレザー「ミネルバリスシオ」を使っており、なんともオイルたっぷりのリッチな風合い。
「ピアストラ」には金属類が一切なく、全てがペラッとしているため、いかなる力が加わっても型崩れが起きません。
レザーの経年変化をピュアに楽しむのに、これ以上の財布は無いでしょう。
》m+ エムピウ公式オンラインショップで「ピアストラ」をチェック
【シュリンクス ヒトエ・フォールド】薄さと無駄の排除【そして革の使い方】
概要
【発売年】2019年
【価格】17,600円 (Liscio)
【寸法】92×92×10mm
【概要】
レザーブランド「シュリンクス」がクラウドファンディングで記録的な資金調達に成功した財布「ヒトエ・フォールド」。
真骨頂は独自の開閉機構、そして全てを削ぎ落とした究極のシンプルデザイン。
【設計手法】
シュリンクスのデザイナーの佐藤宏尚(さとうひろたか)氏は、前述したエムピウの村上雄一郎(むらかみ ゆういちろう)氏と同じ建築士。
方針は、既存の常識を疑い、徹底した合理的・論理的デザインの追求により、新たな価値を創出すること。
言葉の通り、デザインに全振りした「ヒトエ・フォールド」は、まさに財布界のiphone(そうなると、佐藤宏尚氏は財布界のジョナサン・アイブか)。
設計思想
- 薄く
- 独自の開閉構造
- シンプルデザイン
1.薄く
まずズボンにすっきり収まる薄い財布を作るため、「小銭とカードが重ならない薄い財布」のデザインを採用。
2.独自の開閉構造
1.の小銭とカードが重ならない構造を維持しつつ、デザインをミニマルにする方法を模索。
あるとき、カードに革をひっかけて財布を閉じる独自の開閉構造のひらめきにより、ブレークスルーが起きます。
カードポケットとコインポケットの間の可動域を活かし、カードの角から革をひっかけて財布を閉じ、逆に外して財布を開きます。
従来の財布の開閉といえば、ボタン、ファスナー、あるいはコハゼがメイン。
そこに来て「ヒトエ・フォールド」の開閉構造は革新的であり、極めてシンプルです。
3.シンプルデザイン
1.の「薄く」、そして2.の「独自の開閉構造」を満たした上で、徹底したシンプルさの追求こそ「ヒトエ ・フォールド」の真骨頂に感じました。
無駄の排除
ちなみに、「ヒトエ・フォールド」の場合、シンプルさは無駄を排除することで実現。
たとえば外観は一切の無駄を排した演出。
さらに内側の各パーツは立体構造で統一し、空間から無駄なスペースを排除。
革の使い方
「ヒトエ・フォールド」にもイタリアンレザーが使用されていますが、驚くべきは革パーツの使い方。
内側に「トラ」と呼ばれるナチュラルマークが見られる革を使用し、表側には「トラ」の少ない、色合いが統一されたレザーを使用していました。
この徹底した緻密さも「ヒトエ ・フォールド」の売りですね。
ユーザー目線の排除
先述した2つの「小銭とカードが重ならない薄い財布」は、ユーザー目線に立ったデザインに徹してました。
一方の「ヒトエ・フォールド」ですが、終始一貫してシンプルなデザインが追求されています。
これは言い換えれば、ユーザー目線の排除でもあります↓
- 小銭を収納して歩いた際の「ジャラジャラ音」
- 財布を開くとき、小銭がこぼれ落ちない角度の意識
- 使用するごとに型崩れが起きる立体的な形状
- 財布の開閉動作の慣れ
革命的なアプローチ
シンプルなデザインを追求した結果、快適な使い心地や自由度が失われています。
が、これらのデメリットを補って余りあるデザインの美しさがそこに存在していました。
財布としての機能性を最低限にとどめ、シンプルさを突き詰めたアプローチはもはや革命的です。
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【レビュー】スマートシンプルの極致 SYRINX Hitoe Fold
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【スタテロス 使いやすいコンパクト財布】薄さとレジ前の使いやすさ【そして革の使い方】
迷ったのですが、3つの財布に加え、さらに「小銭とカードが重ならない薄い財布」一つ財布を補足します!
概要
【発売年】2022年(2020年誕生)
【価格】12,300円
【寸法】100×100×17mm
【概要】
キャッシュレス決済が多いなか、たまに使う現金のため、レジ前で極上の使い心地を提案した財布。
それが、この「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」。
このブログの筆者のわたしがデザインした財布になります。
そのため、誰よりも詳しく解説できます(笑)
【設計手法】
わたしはこれまで、硬貨選別器つきの長財布(プロフィール欄のgif動画)やレジ前で使いやすい長財布「KIND Wallet(カインドウォレット)」(2018年)をデザインしてきました。
こだわりは、人間工学の考えを取り入れ、開いたときの財布の持ちやすさ、現金やカードの視認性、そして出し入れにフォーカスした財布デザイン。
ユーザーに寄り添う財布のデザインを試みて10年。
キャッシュレス時代に求められる薄いサイズ感を維持したまま、レジ前で圧倒的な使い心地を提供する財布を作ることにしました。
設計思想
- 薄く
- レジ前での使い心地
- 余裕のある設計
1.薄く
ズボンにストレスなく収まる薄い財布を作るため、「小銭とカードが重ならない薄い財布」のデザインを選択しました。
実は、これは設計段階で個人的なプライドを捨てたデザインの採用でした。
というのも、もともと、「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」のベースとなった財布は、私がデザインしたレジ前で使いやすい長財布「KIND Wallet(カインドウォレット)」(2018年)↓
この「KIND Wallet(カインドウォレット)」をデザインするうえで、快適な浅さのコインポケットは徹底的に追求済みでした(40ミリ)↓
ですが、キャッシュレス時代に突入するなか、財布のトレンドはどうしても”薄さ”が注目の的に。
この流れに対応するため、「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」では自分の過去の”最高の使いやすさ”の追求は無視。決められた小さなサイズの枠組みの中で、レジ前で使いやすい財布を追い求めました。
2.レジ前での使い心地|使いやすくなければ意味がない
先ほどまでご紹介した3つの財布(アブラサス、エムピウ、シュリンクス)は、どれも"財布を閉じた状態で美しいデザイン”を追求しています。
ですが、財布を使用するとき、もっとも緊張が走る場面はレジ前。
お金の交換はわずか数十秒の間に行われます。荷物が多いときは両腕がまともに使えないときもあります。
この状況で、「財布は使いやすくなければ意味がない」がわたし個人が財布をデザインする上での絶対的ロジック。
つまり、財布を開いているときの機能性に最もこだわりました。
レジ前で圧倒的な使い心地
「レジ前で財布を快適に使う」デザインに全振りした結果、次の2つのポイントで他の財布より優位に立ちました。
①財布を開いたときの持ちやすさ
②視認性と取り出しやすさ
①財布を開いたときの持ちやすさ
まず、一つ目の”財布を開いた状態で持ちやすいこと"に関して。
「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」の持ち手部分の長さは、日本人の手の寸法データを基に設計しました。
そのため、片手での持ちやすさはフィット感があり、癖になります。
②視認性と取り出しやすさ
2つ目が視認性と取り出しやすさ。
「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」は、片手で保持したまま、カード・小銭・お札の全てが簡単に見渡せます。
もちろん、どれも容易に取り出しが可能。
他の3つの財布のように、財布の角度を両手でコントロールしながら、中身を取り出す苦労は一切ありません。
出し入れしやすい
カードはつまみ出しやすいように、端が露出したデザイン↓
コインポケットは、取り出しやすさと見やすさを両立させた浅口ポケット構造↓
革の使い方
レザーには、美しい経年変化が見られる国産革「栃木レザー」をつかっています。
異なる厚みに漉(す)いたこの極上革を適材適所で使用。
分かりやすいところで言えば、コインポケットに厚めの革を使用することで、しっかりと安定した使い心地が生み出されています。
3.余裕のある設計
レジ前での使い心地を向上させるため、人間工学の考え方を取り入れた結果、「人はミスをする(ヒューマンエラー)こと」に注目します。
例として、
- 計算ミスで小銭が予想以上に多くなってしまうケース
- 急いだ出し入れが求められるケース
こういったときは、どうしてもミスが発生しやすいもの。
これらの場面を考慮し、カード入れ・小銭入れ・お札入れの全てに「余裕」を設けた寸法を採用し、高い収納力や機能性を実現させています↓
このため、実益が定かでないミリ単位での小ささは「スタテロス 使いやすいコンパクト財布」に一切追求していません。
あくまで「財布は使いやすくなければ意味がない」というのが、数十以上の財布を使い、わたし自身が財布をデザインしてきた中での結論になります。
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【レビュー】STATELOS コンパクト財布|レジ前で抜群の使いやすさ
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【まとめ】知識と観察力で混沌に立ち向かう
まずは最後まで読んでいただきありがとうございました。
前半は、実例を交えてパクり問題について切り込み、
後半では3(+1)つの「小銭とカードが重ならない薄い財布」を比較することで、設計思想をまとめました。
一見すると似た財布。ですが、全く異なるこだわりが見られましたよね。
パクリデザインに対するスタンス
財布のパクリに関するわたし個人のスタンスですが、
結論として、知的財産権に触れない範囲でデザイナーが十分緻密に設計をしたのであれば、それはパクりでは無いと言って良いように私は考えています。
アイデアは被る
というのも、所詮は手のひらサイズでデザインするモノ。
どうしても似た部分が出てくるでしょう。
精密機械でもないので、真似できないデザインなんてものもありません。
財布のアイデアなんて言うものはその程度のものなのです。
手のひらサイズで競う
でも、だからこそ面白いのです。
この小さなサイズで様々な意図が読み取れるデザインはもはや哲学。
デザイナーのバックグラウンドまで知ると、感動すら覚えます。
自分の考えを磨く
思えば、これは生活の中であふれるあらゆる製品で言えることかもしれません。
似たようなモノが溢れ、ルッキズムが重視され、価格競争で何が良いのかもわからない時代。
こういうときこそ自分の考えを磨き、自分で選択するのが面白いかもしれません。
みんなで知見を広げ、一緒にこの混沌とした社会を楽しみたいものです。
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【2023年forメンズ】おすすめブランドのコンパクト財布12選
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