動物の「皮」を素材としての「革」へ加工する「鞣(なめ)し」加工。
古来より人類は革を使用してきたものの、「鞣(なめ)し」は化学反応で、とても分かりにくいものです。
そこで、一歩わかりやすく、かつ役立つ情報が届けられるように本記事で解説しました!
【はじめに】「なめし革」の意味とは
「鞣(なめ)し革」とは、動物の「皮」を実用性のある「素材」としての「革」に加工したものです。
動物の皮を剥いだままにしておくと、時間が経つにつれて硬くなり、腐敗も進んで分解していきます。
やがて土の栄養となり、新たな生命の維持や誕生に役立てられたりします。
まさに生命の循環ですね。
自然現象に逆らい「革」として安定させる
しかし、もともと皮は柔らかく暖かい貴重な資源です。
「自然現象に逆らい、皮を腐敗しない状態で革として保つ方法は無いか?」
このようにはるか古代の人々も考えました。そこで生み出されたのが、「鞣(なめ)し」の技術になります。
「皮」に化学的、そして物理的な処理をくわえ、耐熱性・耐久性・柔軟性をもたせた、「なめし革(英語: tanned leather)」が誕生しました。
革なめしの種類
皮を鞣(なめ)す際に使用されるのが鞣(なめし)剤。
今の時代に使用されるなめし剤ですが、主に二つあります。
それが植物から抽出される「タンニン剤」↓と、
クロム化合物という化学物質から構成される「クロムなめし剤」↓
「タンニン剤」によってなめされた革を「(植物)タンニン革」、そして「クロムなめし剤」によってなめされた革を「クロム革」と呼びます。
ちなみに、二つのなめし剤を併用し、単独でなめしたときの欠点を補う技法を「コンビネーションなめし(複合なめし)」と呼んだりしますね。
タンニンなめしとは
(植物)タンニンなめしされた革を一般的に「ヌメ革」と呼びます。その技法はかなり古くからあると言われています。
さかのぼるところ、紀元前600年ごろには地中海沿岸で存在。
イタリアのレザーが有名なのは、こういった古い歴史があるからでしょう。
そして歴史が古いものの、未だにタンニンなめしのメカニズムが完全に解明できていないのも神秘的ですね。
タンニンなめし革の特徴
- なめしにかかる時間は長く、一苦労(数日~数週間)
- ハリがあるものの、キズがつきやすい
- 使い込むほどに色合いが変化し、ツヤ感が増す「経年変化」が存分に楽しめる
タンニンなめし革は、水や油を吸収しやすく、太陽の光で革の色が変化します。
革としてその形状を維持しつつも、化学的・物理的に反応しやすさがあるからこそ、「経年変化」が楽しめるんですね!
イメージとして、いかにもこういった"レザーっぽい"財布ですね↓
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クロムなめしとは
タンニンなめしの反対に、クロムなめしの技法はかなり最近になって誕生しています。
というか、1893年に実用化されたばかりです。
が、今では85%がクロムベースで製造されるほど生産性が高い技法。
クロムなめし革の特徴
- なめしかかる時間が高速(数日)
- 非常に丈夫で柔らかい
- 着色したときの色の発色がバツグン
クロムなめし革は短時間で製造でき、コストパフォーマンスも非常に良いレザーです。
革も柔軟で軽く、着色も良いことから人気。
化学的・物理的に安定していることから、現在はこのクロムなめし技法が大半を占めます。
わかりやすいイメージとして、こういった綺麗な発色の財布がありますね↓
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なめし業者による「なめし革」の作り方を解説
革を鞣(なめ)す製革業者のことを「タンナー(tanner)」と呼びます。
タンニン剤(tannin)を使用していたことが名前の由来。
国内だと姫路のなめし業者やブランドレザーの「栃木レザー(株式会社)」がタンニンなめし業者として有名ですね。
では「鞣(なめ)しって結局どうやってんの?」ということで、牛の皮の鞣(なめ)しを例に解説していきます!
準備工程|なにごとも準備が大切
鞣(なめ)といっても、牛から剥いだばかりの皮をいきなり鞣剤で処理していくわけではありません。
料理の際に野菜を洗って皮をむくように、準備工程が必要です。
わたしが以前つとめていた会社の上司も「準備が80%!準備が一番大切!」とよく言っていたのを思い出します。懐かしいです。
ではでは、いきます!
水洗い|皮をきれいに
まず牛から剥いだ皮はナマモノです。そのままにしておくと、当然ながら腐ってしまいます。
そこで塩漬けにされて運ばれるのが基本。
ポイント
野菜の塩漬けが腐りにくいのと一緒です!塩漬けにすることで、皮や野菜から水分が抜けます(中学の理科で学ぶやつですね!)
こうして塩が細菌から水を奪うことで、細菌の活動は阻止されるのです。
準備段階のはじめとして、この塩を除去しつつ、皮の汚れを取り除くために、大きな木製のドラム(樽たる)に入れて水洗いされます。
裏打ち|余分なものを掻き落とす
汚れが取れ、結構きれいになった皮です。
が、まだ皮には牛から剥いだ際の肉や脂肪なんかが付いています。
そこにフレッシングマシンと呼ばれる刃が付いたローラーで余分なものを皮から落としていきます。
まな板からスポンジで汚れを落とす感じですかね。(こっちの方が鋭利ですが・・・)
石灰漬け・脱毛|皮から毛を抜き、やわらかく
次に原皮を水酸化カルシウム(石灰)溶液に漬けて、毛根部をゆるめ、脱毛させます。
また、皮を構成しているコラーゲン繊維をほぐします。
これで革は我々の知る柔軟なものになるんですね!
専門書を読んでみたのですが、化学が苦手な私にはこのようになる原理が全くわかりませんでした!笑
分割|皮の厚みを調整
皮から余分なものは取れましたが、まだ準備は途中ですね。
皮は部位によって厚みに差がありますね。これだと鞣(なめ)すときに薬品の浸透が不均一になってしまいます。
それではきれいな素材としての革が作れなくて困る。
そこでスプリッティングマシンを使用し、皮を銀面側(表面が付いているきれいな方)と肉面側(皮の内側のざらざらした床皮)の二層に分割しましょう。
補足
注) ちなみにこの分割工程は鞣(なめ)したあとに行うパターンもあるようです。
脱灰・酵解|なめすために中性へ
現時点だと、皮は2工程前の石灰漬けによって強アルカリ性を示します。
のちほど説明する鞣(なめ)し作業は、どうやら酸性域で行われるようです。ので、酸で中和します。
また、銀面(皮の表面)をきれいにするため、酵素で銀面の表面の余分なタンパク質を除去します。
革の銀面がとてもスムーズで美しいのはこの酵解のお陰なのでしょう。
なめし工程|いざ「革」という素材へ
ここまでで、
牛から剥いだ皮を洗い、余分なものをそぎ落とし、脱毛し、柔らかくし、適切な厚みに調整し、化学反応で中和しました。
これで、よーーーやく鞣(なめ)す準備完了です。
既にめちゃめちゃ大変ですよね・・・
なめし|皮から革へ化学反応
ではいよいよ鞣(なめ)しの工程です。
鞣剤(タンニン・クロム・混合)を皮に浸透させ、皮のコラーゲン繊維と結合させます。ちなみにタンニンなめしの鞣剤「タンニン」は、ミモザやチェストナットと植物から抽出されます。
そして、この鞣剤の配合や成分がタンナー(鞣し業者)の間で明確に特徴が出るところ。革の経年変化の仕方にも影響します。
ラーメン屋の秘伝のスープの配合に似てますね!
革はなぜ腐らないの?
では、鞣剤が皮のコラーゲン繊維と結合することでなぜ腐る「皮」から腐りにくい製品の「革」になるのでしょうか?
わたしなりに勉強して理解できた範囲で噛み砕いて解説していきます!
まず、私たち人間もの肌も「皮」ですが、腐りませんね。
私たち生きている生物の場合、皮のコラーゲン繊維に水分が補給されることで、やわらかい肌の状態が保たれます。
そして水分豊富な肌には腐敗の原因となる菌もいますが、体の免疫機能が菌の増殖を抑え込んでいます。
しかし、生物から剥いだ「皮」となると、水分がなくなり硬く変化します。
免疫機能も機能しないため、湿度が高い(水分)ところでは腐敗も急速に進んでしまいます。
鞣剤はそんなコラーゲン繊維に作用することで「革」として柔らかさを保ちます。
革には水分が含まれないため、菌も増殖しにくいということでしょうか!
こうして耐久性の高い製品として「革」ができあがるわけです。
水絞り|革から水分除去
ようやく鞣し革ができたところですが、まだ作業は続いてきます。
なめした直後の革の中には余分な水がたくさん含んでいます。
セッティングマシンで水を絞り出しつつ、しわを伸ばします。
裏削り|革を一定の厚みへ
そしてシェービングマシンで必要な厚みに肉面を削り、革の厚みを一定にします。
染色・加脂|革に色と脂を含ませる
ここではドラムに革を入れ、アニリン染料で染色です。
革に色がつき、ファッションアイテムへと昇華されます!
また、革に脂を加えることで、我々が良く知るハリのある感触が生み出されます。
乾燥|色と脂を定着させる
前工程で革の中に加えた染料や脂を定着させるため、乾燥させます。
そして・・・お待たせしました。みなさんのお気づきのように、これでやっと「革」の完成ですね!
じつはお客さんの要望次第で仕上げや塗装も行われたりするのですが、大まかな鞣し革の方法はこんな感じになります!
(仕上げによる特徴は他の記事で書いているので、気になる方はこちらの記事を↓)
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【レザーソムリエ直伝】革の種類を仕上げ別で解説!!
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【まとめ】なめしの化学反応まで知りたい方へ
以上、一歩わかりやすく、できるだけ簡単に「鞣(なめ)し」加工を解説してみました。
が、うわべだけの説明になり、なかなか難しいものですよね。これは「鞣(なめ)し」が複雑な化学反応から成り立っているからでしょう。
それに使用する機械もイマイチ想像がつかないところもありますよね。
こういった理由でどうしても想像できない部分が生じるわけですね。
さらに詳しく知りたい方へ
もし、"化学反応まで詳しく理解したい"という方は、お近くの図書館で書籍「皮革の実際知識(著:菅野英二郎, 出版社:東洋経済新報社)」をチェックしてみるのをオススメします!
化学反応の原理までわかったら、逆に私に教えてください!(笑)
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